2022年にロシアがウクライナに大規模な軍事侵攻を行ってから約2年が経過した。当初は首都キエフ防衛に成功して以降、ミサイル巡洋艦モスクワ撃沈やハリコフ反攻、ヘルソン奪還などウクライナ有利の形勢であったが、2023年6月に行われたウクライナの反転攻勢が失敗すると膠着状態に陥り、現在では再びロシアに押される形となっている。こうした流れの一因となっているのがウクライナを支援している西側諸国での弾薬生産量の不足と、最大の支援国であるアメリカによる支援の先細りだ。
かねてよりウクライナ側は兵器を含めた軍事支援を日本にしてほしいと考えているようだが、日本は一貫して殺傷能力のある兵器の供与は行っていない。兵器の供与を行わないのは法律や「三原則」の縛りのためだが、簡潔に言ってしまえば日本の「平和主義」に反するからだ。
それでもパトリオット地対空ミサイルをウクライナに供与したために自国分が不足したアメリカに対し、日本のパトリオットを輸出したことで結果的な「玉突き」供与ともとれる形の行動はとった。ただ日本が輸出したパトリオットをアメリカがウクライナに提供することは三原則に抵触するためできない。そのため弾薬のような消耗が激しい品目ではこのやり方でウクライナに供与するのは難しいだろう。
軍事支援でなければ効果がないとは言わないが、現状ウクライナは砲弾の不足が原因で劣勢に立たされているのだから、軍事支援でなければいけない局面があるのは間違いないだろう。
そもそも問題なのは日本のウクライナ支援があくまで「西側諸国としての義理」程度の意識でしか行われていないことだ。
西側の盟主であるアメリカや、ロシア・ウクライナと地続きで隣り合う欧州に比べて日本はこの戦争とは縁が薄いのだから積極的な支援など不要だという声もあるだろう。しかし日本にとってロシアは北方領土を占拠している国である。単に欧米に追従する形ではなく「北方領土を不法占拠しているため」とロシアにアピールするために日本独自で積極的な軍事支援を行うことはできなかったのだろうか。
これまで戦後日本は非戦、平和主義の国としてロシアに北方領土の返還を求めてきた。しかしそうした活動は現在まで何の効果もなかった。そこにきて今回のウクライナ侵攻だ。ロシアがただ返せ返せと言うだけで領土を明け渡してくれるような国でないことは明白だろう。本気で北方領土の返還を望むならロシアに対して圧力をかける必要がある。今回のウクライナ戦争はその好機であるはずだ。
ただ返せと言うだけならばロシアにとってはただ無視するだけでよい。これまでそうだったように返還をエサとしてちらつかせて、経済的な援助を引き出す手段としていいように使われるだけだ。「返還をしないことによる不利益」をロシアに認識させなければならない。
とはいえ現在の日本がそうした行動を起こせる可能性は限りなく低い。兵器を供与することは今でも国民の中に根強く存在している「平和主義」に反するからだ。先に述べたパトリオットのアメリカへの輸出も朝日新聞、毎日新聞のような左翼系メディアからは「平和国家の根幹を揺るがす」として批判を受けている(1)(2)。
ウクライナはロシアからの一方的な侵略に晒され、民間人の虐殺も行われている。それを防ぐための軍事支援にすら反対する「平和主義」は一体どこが平和的なのだろうか。このような主張は単にそれを主張している者たちの反国家イデオロギーの表れか、もしくはロシアを刺激したくないという事なかれ主義の表れだろう。
日本の外交は基本的に欧米に最低限追従しておいて、それ以外はなるべく強い動きは控えようとする傾向が強いと感じる。ウクライナ戦争に対する日本の態度は如実にそれを示している。こうした「平和主義」に根ざした事なかれ的姿勢は日本のためにも平和のためにもならない。
以前、「返れ、北方領土」などというスローガンを見かけたことがある。他国が領土を占拠しているのに、その国に「返せ」と言えずに「返れ」などというお茶を濁したような主張しかできない「事なかれ平和主義」には笑うしかない。他国が占拠している領土が自然と返ってくるわけがない。
もっともこれは「返せ」も同様で、返せと唱えているだけでは返してくれるはずもない。本気で返還を望むなら多少のリスクを承知で返してもらうための行動を取らなくてはいけない。事なかれ平和主義を改めない限り永遠に北方領土が返ってくることなどないだろう。
(1)朝日新聞デジタル、(社説)殺傷兵器輸出 なし崩し拡大 許されぬ、https://www.asahi.com/articles/DA3S15824356.html
(2)毎日新聞、殺傷兵器の輸出 議論なき拡大は禍根残す、https://mainichi.jp/articles/20231226/ddm/005/070/095000c