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安藤馨・一橋大学教授が「参政党支持者のような低能力者に参政権を与えるべきでないと発言した」として批判されている件について

安藤馨あんどうかおるという一橋大学の教授がネット上で批判にさらされている。理由としては、「参政党の躍進を快く思わない安藤氏が朝日新聞への寄稿で、知識や判断能力の高い有権者には複数の票を与え、参政党支持者のような能力の低い有権者には参政権を与えるべきではないと主張した」からだというものだ。XやYouTubeでは安藤氏に対する批判コメントが多く書き込まれている。

安藤馨・一橋大学大学院法学研究科教授(一橋大学ホームページより)
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安藤馨氏が「参政党支持者のような低能力者に参政権を与えるべきでない」と主張したというのは事実ではない

当該記事は2025年8月13日の朝日新聞における「憲法季評」というコーナーに掲載された『「排外主義」の広がり 政治の価値、参加か合理性か』というタイトルのもので、参院選における参政党の躍進に関する記事である。

「安藤氏が能力の低い有権者に参政権を与えるべきではないと提案した」という主張のソースとなったのは記事中の

憲法15条3項は普通選挙を定めているが、合理的判断能力の有無に無関係に選挙権を等しく賦与する民主政には、残念ながら、有権者の不合理な事実認識によって政治的決定が左右されるという、政治的無知への脆弱(ぜいじゃく)性の問題がある。政治的選択に関連する事実的知識や判断能力に応じて、高能力者には複数票を与えるとか、低能力者には選挙権を与えないといった政治制度は智者政(エピストクラシー)と呼ばれ、政治的無知の影響を免れやすいとされる。選挙権の行使は国民一般に重大な影響を与えるのだから、医療行為のように一定の能力水準を満たした者にのみ許されるべきだと考えてはいけないのだろうか。我々は拙劣な医療にさらされない権利を有するがごとく、拙劣な政治にさらされない権利を有してはいないのだろうか。

という箇所である。

この箇所の前には、参政党の主張は「事実に基づかない非科学的態度が目立つ」とあり、それをキャプションとして付けたうえでここだけを見せられれば、あたかも安藤氏が「事実を正しく認識する能力のない参政党支持者のような、低能力な有権者から参政権を剥奪すべきだ」と主張したと見ても不思議ではない。

だがそのすぐ後には

だが、それでもなお多くの政治理論家は智者政を斥(しりぞ)け、誰もが政治参加しうることの価値を重視し、民主政を擁護する。

という一文がある。

さらにその後の文章では参政党候補者の女性比率が高いこと、政治資金における支持者の自発的拠出の割合が高いことなどを挙げ「政治参加の観点からは高い評価を受けてしかるべき」とも述べている。そのうえで「参加の価値は合理性の価値を打ち負かすに足るか。私は果たして選挙権を有するに値するか。現代の民主政の実情が否応(いやおう)なしに突きつける難問である。」として記事を結んでいる。

このことから、あくまで政治的無知に対する方法として「智者政」という考え方があると述べただけで、「低能力者から参政権を剥奪せよ」と主張したわけではないことがわかる。

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そもそも参政党やその支持者を批判する記事ではない

記事全体を見れば必ずしも参政党に批判的な内容ではない。

参政党の「日本人ファースト」の主張に対しては、「政治共同体はその構成員に外部者よりも優先的に配慮するべきである、という意味においてであれば、そのような優先性は福祉国家の基盤でもあり、なんら奇異な主張というわけではないだろう(それを否定する方がむしろ政治的には「非常識」に属しよう)」と肯定的な認識を示している。

記事中では参政党が事実に基づかない主張をしていると指摘してはいるものの、そうした点は左派政党の支持者やMAGA系トランプ支持者などにも見られるとして「党派を問わず現代の民主政全般の問題」としている。

また参政党支持者に40~50代の就職氷河期世代が多いことを挙げ、「外国人が日本人より優遇されており、日本人の持たない特権を享受している」というような事実に反する排外主義的認識を真に抑止、是正したいなら、彼らの不満の根源である経済政策と再分配の失敗こそを是正しなくてはならないと述べている。

さらに外国人労働者の多い自治体に参政党支持者が多い点などから、彼らの主張は日常的に外国人と接する経験的知識に支えられているとし、「排外主義の無知を単に嗤(わら)ったり非難したりしてみせることは二重に的外れ」とも述べている。

こうした点を見れば、記事の趣旨は参政党やその支持者に対する批判ではなく、むしろ参政党を批判する左派や大手メディアに対する指摘という向きが強い。

安藤氏はこれまでの「憲法季評」においても、与党議員にのみ裏金議員とレッテルを貼り、野党議員の収支報告書への不記載には裏金と言わないマスコミの姿勢を批判するなど、大手メディアへの批判を行っている。

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切り抜きによる印象操作には気をつけよう

実を言うと筆者も初めて「一橋大学の教授が朝日新聞で参政党支持者のような低能力者から参政権を剥奪しろと言った」と聞いた時は、それを疑うことなく信じてしまった。

なぜなら最近の大学教授をはじめとした左翼知識人たちならこのような過激な主張をしても不思議ではないと思ったからだ。安倍元総理の辞任に泣いたと発言した元アイドルに「早く死んだほうがいい」と暴言を吐く大学講師がいたり、その安倍元総理が暗殺されたときも「暗殺が成功して良かった」などと言う大学教授がいたぐらいだ。それに2016年のトランプ当選の辺りからマスコミや左翼界隈は民主主義や多数決に疑問を呈する主張をちらほらし始めていた。

それにしても日頃、民主主義が大事と言っておきながら、自分たちが気に入らないから参政権を剥奪しろと言いだすのはあんまりだと思い、ブログに書こうと思って記事を読み、事実と違うことがようやく分かった。当該記事はネット上では有料記事だったため読まずに間違いに気づかない人も多いだろうと思う。100%信じないにしても、「そういうことを言った大学教授がいたらしい」止まりで終わってしまう人もさぞ多いのではないだろうか。当たり前だが悪質な切り抜き印象操作はマスコミだけでなくネットにも存在するわけで、情報の取捨選択には気をつけないといけないなあと改めて思った。

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