広告

虐待禁止条例改正案に見る自民党埼玉県議団の増長と慢心

自民党埼玉県議団が提出し、埼玉県議会の委員会で可決されたものの、小学生以下の子供を放置することを虐待とみなすという内容があまりにも非現実的であるとして全国からの強い批判を受けて撤回された虐待禁止条例改正案。

これまでの流れを見てみると今回の騒動は、この条例案を提案した人々がこれまでも同じような「上からの押しつけ」的な条例を制定させてきたことで増長し目を曇らせた結果であるということが見えてくる。

広告

虐待禁止条例案を主導した田村琢実県議(51)

自民党埼玉県議団団長の田村琢実県議(51)。本人のオフィシャルサイトより

一連の騒動でメディア等の表舞台に登場したのは自民党埼玉県議団団長の田村琢実県議(51)である。問題の改正案を提出した自民党埼玉県議団の団長であり、週刊文春の記事(1)によれば、この田村県議は

自分に従順な後輩を作るのが上手いタイプ。若手議員を20人くらい引き連れてキャバクラなどに行き、田村氏が奢るのです。そうすることで、県議団の中で彼に逆らえない雰囲気を作る。今年の4月に団長に就任してからより一層強権的になっています。現在、埼玉県議会は全国でも突出して議員提案条例が多いのですが、それを主導しているのが田村氏。条例を数多く作ることが仕事だと考えている節があり、選挙の時のアピール材料に使っている。今回の『虐待禁止条例』の改正案には『これでは虐待者をたくさん生み出してしまう』という不満が党内からも出ていましたが、結局若手を味方につけて委員会を押し切りました

とのことであり、今回の改正案がこの田村県議の主導によるものであったことがわかる。

また、田村県議は当該改正案に関する記者の質問にこのように答えている(2)

(Q.僕も親が共働きで、留守番していたが、それも虐待になる)もちろん、そう考えています。日本の場合、それが虐待だという認識が希薄ですよね。だからこそ、こうやって法規範で整備をさせていただいて、認識を高めていただくことが重要。

この発言を見ると、田村県議が「正しいのは自分であり、世間一般の認識が間違っているのだ」と考えていることがわかる。また、「日本の場合、それが虐待だという認識が希薄ですよね」という発言から、おそらくは留守番を虐待と考えるアメリカなどの考えを念頭に置いていて、日本人もそうあるべきだと考えていることが推測できる。

広告

自らは子持ちの人妻と浮気をしていたという田村県議

このように、日本人は虐待に対する意識が低いと言わんばかりの主張を行う田村県議であるが、彼自身は夫と子供を持つ女性と不倫関係にあったようだ。上記週刊文春の記事によると、埼玉県議団の受付嬢をしていた女性に好意を抱いた田村県議が、同僚議員に女性を飲み会に誘わせて、その飲み会の席で女性と意気投合し不倫関係に至ったという。

言うまでもなく、相手の子供はこのようなことを知ったら傷つくだろう。それに相手方は夫が単身赴任中であり、子供がいくつなのかは分からないが、もし小学生以下ということであれば提出しようとしていた条例で虐待に該当することになる。

この文春報道が事実であれば、裏でこんなことをしておきながら、さも自らが先進的な虐待防止思想の持ち主であるかのように振る舞っていたのだから何をか言わんやである。

広告

「留守番を虐待とみなすべき」という主張について

しかし、これだけでは単なる田村議員への人格攻撃だけになるので、田村議員の「留守番は虐待とみなすべき」という主張に関しても少し触れたいと思う。

私はこれに関してはっきりした見解をもっているわけではないが、少なくとも「アメリカではこうだから日本もそうあるべきだ」というだけでは単なる詭弁(権威に訴える論証?)であり理屈として通用しないだろう。アメリカは日本と比べて治安が悪く、子育ての環境も日本と同じではないのだから、日本では日本の状況に鑑みて考えるべきだ。

治安云々を別にしても子供を放置しない方がいいのは確かかもしれないが、そもそも共働きしなければ子供を育てられないというのが多くの日本人の置かれた環境なのだから、そういう点とのバランスを考えないといけない。

広告

田村県議と自民党県議団から感じる「啓蒙してやる」意識

今回の田村議員と自民党県議団のやり方で私が一番嫌いなのは、一般的に「いいこと」とされていることを一方的に人々に押し付けようとする姿勢だ。

今回の改正案にしても、確かに子供だけにするよりは、大人が見ていたほうがいい。しかしそれを条例として制定するならば、現実的にそれがどの程度可能なのかという点を踏まえなくてはいけないはずだ。

後述するが、自民党埼玉県議団は近年このような「一般的にすべきとされているが非現実的なこと」を上から押し付けようとする条例を次々に制定させている。

なぜそのようなことを大きな批判なく実現させることができたかといえば、違反した場合の罰則を設けないことで中身を骨抜きにしているからだ。

広告

地方政治家によって「罰則なしの条例」が悪用されてはいないか

以前、全国的な騒動になった子供のゲーム時間を一日一時間に制限するという香川県のゲーム条例は違反した場合の罰則がなかった。

時に地方議員は自らのレガシーづくりのために条例を制定することがあると聞いたことがある。そのような場合、罰則なしであれば条例案も通りやすくなるだろうし、住民からの反発も罰則ありに比べれば少なくて済むという算段があるのではないか。

田村県議は条例をたくさん作ることが議員の仕事であると考えている節があり、これを選挙時のアピール材料にしていたともいう。今回の虐待禁止条例案にしても、非現実的な内容でも罰則がないのだから批判を受けずに済むだろうと考えていたのではないか。

地方政治の場ではこのような罰則なしの条例が濫用、悪用されているように感じる。

広告

今回の前触れである「エスカレーター条例」「LGBT条例」を制定したのも自民党埼玉県議団だった

上述したようにここ最近の埼玉県は上から目線で、押し付けがましい条例ばかり制定している。

具体的には2021年のエスカレーター歩行禁止条例と、翌2022年のLGBT理解増進条例である。この2つはどちらも自民党埼玉県議団が提案したものであり、違反した場合の罰則がない。

上記文春記事によれば「現在、埼玉県議会は全国でも突出して議員提案条例が多いのですが、それを主導しているのが田村氏」とのことから、これらも田村議員が主導した条例なのかもしれない(LGBT条例に関しては田村県議自身が自らの実績としてオフィシャルサイト上で紹介している(3))。

私はこのどちらの条例も不愉快に思っていたのだが、メディアが好意的に報じたこともあってか大きな批判に晒されることはなかった。

おそらく今回の虐待禁止条例案とこれまでに制定されたエスカレーター条例、LGBT条例は無関係ではない。3つとも自民党埼玉県議団が提案し、違反した場合の罰則が設けられていない。エスカレーター条例は全国初として、LGBT条例は国に先駆けて制定されたとしてどちらもメディアの注目を集めた。

ここからは推測になるが、「一般的に先進的な、進んだ考え」と思われていて「一般的にはいいこと」と捉えられてはいるが、それに罰則を設けると大きな批判を受けると思われるので罰則を設けない。こうした条例を制定させることで注目を集め、自らのレガシーやアピール材料として利用したいという意図が自民党埼玉県議団、もしくは田村県議にあったのではないだろうか。そのために一連の「上からの押しつけ」的な条例を制定させてきたのではないか。

これまでのエスカレーター条例、LGBT条例の成功で増長、慢心したために目が曇り、あまりにも非現実的な内容の条例を制定しようとしたことで世論の大きな批判に晒されたというのが今回の騒動だったのではないだろうか。

彼らが本気で人々を「啓蒙」しようと思って一連の条例を制定させたのか、それとも注目を集めて議員活動に利用したかったからなのかは分からない。どちらであるにせよ、住民の都合を考えない上からの押しつけ条例は不快なことこの上ないし、罰則がないとはいえ条例違反とされれば民事上の責任が生じるだろう。

今回の虐待禁止条例案で田村県議と自民党埼玉県議団は全国から大きな批判を受けたが、次回の県議選では然るべく断罪されてほしいと思うところだ。

広告

参考資料

1.文春オンライン,《虐待禁止条例を撤回》 自民党埼玉県議団長・田村琢実県議が“北川景子似”受付嬢と「不倫キス」写真 「こちらのほうが子どもへの“虐待”では…」,https://bunshun.jp/articles/-/66364

2.khb,子ども“放置は虐待”条例案に専門家「憲法違反の疑い」共働き夫婦「何もできない」,https://www.khb-tv.co.jp/news/15023332

3.埼玉県議会議員 田村たくみオフィシャルサイト,http://www.takumi-tamura.jp/

広告
広告
時評