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運転中にハトを轢き殺したタクシー運転手が逮捕され実名報道される日本社会の異常性

2023年11月13日午後1時頃。東京都新宿区の路上でハト1羽を轢き殺したとしてタクシー運転手の男性が鳥獣保護法違反の容疑で逮捕された。警視庁新宿署によれば「徐行したりクラクションを鳴らしたりせず、スピードを出してハトをひいた。プロの運転手で、模範になる運転をすべきだった」としている。

運転手は同年12月3日に逮捕され、6日に釈放された。この一件はテレビで大々的に報じられ、運転手の実名と顔写真まで”晒される”事態になっている。故意に轢いたのだとしたら非難されるべきことではあるだろうが、野生のハトを轢き殺したというだけでここまでの社会的制裁を受けるのは明らかに異常だ。

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ハトを轢いたタクシー運転手を通報した通行人

運転手は信号が青に変わったところ急発進し、ハトの群れに突っ込み1羽を轢き殺したのだという。急発進の音を聞いた通行人の女性がタクシーを追いかけ、運転手に「ハトを轢きましたよね」と声をかけた。それに対して運転手は「避けるのはハトの方だ」と言い走り去ったという。その後女性は110番通報した。

私としてはまずこの通報した人物に違和感を覚える。どのような状況であったかにもよるだろうが、普通、わざわざハトが轢かれたからといって警察に通報などするだろうか。最近ではクマを駆除することに対して自治体にクレームを入れるなどの迷惑行為をする動物愛護者が世間を騒がせているが、この通報者もそのような類の人物だったのではと勘ぐってしまう。

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警察による執拗な捜査に違和感

新宿警察署

運転手を逮捕するためわざわざハトの解剖までした警視庁新宿署の対応にも疑問を覚える。確かに運転手が故意にハトを轢いたのであれば非難されるべきことだが、だからといってなぜここまで執拗な捜査を行ったのだろうか。新宿署はそこまで暇なのだろうか。

警察といえば以前、忙しいからと被害者の意向を無視して加害者を微罪処分にしようとした警察官がいたりと、とかく多忙でそのために仕事をちゃんとしたがらない印象がある。その件は青森県警だったが、警視庁の新宿署といえば更に多忙なのではないのか。ぼったくりバーで法外な代金を請求された客が警察を呼んでも警察官はまともに取り合おうとせず、おとなしく不当な料金を支払うよう被害者に促す、などという話も聞く。

もちろんその話は真偽が定かでないし、たまたま当時は新宿署がハトの解剖をしてタクシー運転手を3日間も勾留できるくらい暇だったのかもしれない。だが恐ろしいのはもし新宿署が多忙で被害者にロクな対応もしないのに「動物愛護を重んじる」ためにこの件に関してだけ執拗な捜査を行った可能性があるということだ。

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運転手の実名と顔写真を公表したメディア

極めつけはこの件に関するメディアの対応だ。何度もいうがハトを故意に轢こうとして車を急発進させたならばそれは確かに非難されるべきことだろう。しかし運転手はテレビ等に大々的に取り上げられ実名と顔写真まで晒されることになった。明らかに行ったことに対して社会的制裁が大きすぎるのではないか。

世の中の事件を見れば、彼女と談笑しているのが気に食わないなどとして見ず知らずの高校生をナイフで刺殺し、それから10年以上も逃亡しつづけた30歳の男が、事件当時17歳の未成年だったからという理由で実名が公表されないというケースがある。それ以外にも殺人、強姦などどれだけ残酷な犯罪に及んでも未成年だからと実名が公表されないケースは数え切れないほど多くある。

未成年でないにしても、たとえば道で肩がぶつかったから相手を殴ったとか、万引きした、痴漢したといった「軽微な」犯罪はいちいちニュースで取り上げられなかったり、取り上げられても軽微だからと実名が公表されないケースが多々ある。今回のハト事件はそうした犯罪に比べて重い制裁を受けるべき悪質な事件だといえるだろうか?

今回の逮捕を肯定的に報じている産経新聞の記事(1)では「日本の法制度は、動物虐待に厳しい態度で臨む」として鳥獣保護法で検挙された過去の例を挙げている。

6月には、名古屋市の男が狩猟可能区域外である市内の寺の境内や駐車場で、「朝、カラスの鳴き声がうるさかったから」と許可なく農薬入りのエサをまき、カラス13羽を死なせたとして、同法違反の疑いで逮捕された。

令和3年3月には、徳島県佐那河内村役場に勤務する男が、同法などで捕獲が禁止されている野鳥4羽を剝製にして自宅で保管していたとして、略式起訴された。男は狩猟免許を持ち、村の業務の一環でカラス駆除を担当。カラスとともにわなに入ったタカ、フクロウなど野鳥計4羽を一緒に殺処分していたという。

上の2例はどう見ても今回のハト轢き事件に比べて積極的、計画的に動物を殺そうとしているケースではないのか。この記事を書いた記者はこれらと今回の事件を比べて違和感を覚えなかったのだろうか。

何にせよ、この手の実名報道の基準は全くチグハグだ。本来実名が出て強い社会的制裁を受けるべき人物が匿名で守られ、今回のような明らかに軽微な事件の犯人が大した理由もなく実名・顔写真を晒される。そのうえ政界やマスコミはこの状態を改めるべきとは思っていないようである。

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滝沢ガレソがツイートしたからテレビ局がそれに便乗した?

この件がテレビで大々的に取り上げられた理由として、インフルエンサーの滝沢ガレソ氏がこの件を発信したからだという説まで上がっている(2)。曰く、氏がこの一件をツイートしたところ大バズリしたため、ワイドショーがそれに便乗して取り上げるようになったというのだ(滝沢ガレソ氏は運転手が逮捕、実名報道されたことに批判的なニュアンスで発信しているのだが)。

もしこれが事実なら、テレビ局には報道者としての倫理が全く欠如しているとしか思えない。地上波テレビ局は、国から貸与された公共の電波を利用するという「特権」を得た存在であり、相応の社会的責任があるはずだ。こうした不正義を平然と行うのであればテレビ局に公共の電波を使う資格はあるまい。

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参考資料

1.産経新聞、ハト1羽ひき殺して逮捕、新宿署は「徐行せずスピード出した。プロの運転手なら模範を」、https://www.sankei.com/article/20231205-7XY3JNNQUJKK3P7BAN35AVIKIY/?dicbo=v2-FeckEVf

2.週刊女性PRIME、《東京・新宿》タクシー運転手“ハトひき殺し”は実名まで晒すほどの事件なのか?「見せしめ」「実名晒しに疑問」テレビで大々的に報じられた背景、https://www.jprime.jp/articles/-/30224?page=2

3.産経新聞、「道路は人間のものだ」ハト1羽ひき殺した疑い タクシー運転手逮捕、https://www.sankei.com/article/20231205-S7DIBSHYXZIXNJ67PGHLZ4IHTU/

4.スポニチ、倉田真由美氏 ハトひき殺し逮捕のニュースに違和感「過剰に動物に反応して…人間を巻き込む事故が」、https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/12/06/kiji/20231206s00041000211000c.html

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時評