ジャーナリストの青木理氏が「劣等民族」と発言したことに関するネット上の記事を見ていると、この発言が自民党支持者に対してのものだと述べているものが非常に多い。だが当該発言を素直に聞けば自民党支持者ではなく、日本人あるいは大和民族に対するものだと受け取れるはずだ。にもかかわらずいまだに自民党支持者に対するものだと説明する記事ばかりなのはなぜだろうか。
劣等民族発言の概要
問題の「劣等民族」発言は、YouTubeの「ポリタスTV」というチャンネルにおいて2024年9月12日に行われたライブ配信「報道ヨミトキFRIDAY #170|自民総裁選&立憲代表選、斎藤知事に辞職要求、宜野湾市長選と沖縄4区問題、DNA型抹消高裁判決、大統領選テレビ討論……|」で出てきたものだった。この配信は青木氏とジャーナリストの津田大介氏が二人で政治などについて語り合う形式のものであり、その2:41において問題の発言がされている。
当該発言が出た背景として、配信の最初に津田氏が出演する予定のトークイベントの告知があり、そのトークイベントのテーマが「人々はなぜ自民党に入れ続けるのか」というものであった。それを受けての発言である。
津田「青木さん、ちょっと告知がいくつかありまして」
青木「はーいどうぞ」
津田「はいこちらでーす(少し遅れて津田氏が行う講演の予定が映し出される)。明日…明日じゃない明後日か、明後日ぼく、土曜日に、広島行きます。広島に行って…広島で…ジンセイ(?)でね、こんな講演をします。『人々はなぜ自民党に入れ続けるのか』。結構ね、なんかタイムリーなテーマになってしまったんですけれども、なんか本当は全然違ったタイミングでこれを、なんか話してほしいと。なんか…あの…政治に興味はあるけど、この汽水空港というですね、あの…例のあの…湖のすぐそばにある鳥取の…」
青木「鳥取のね」
津田「はい、あの…まあ大変素敵な書店だったんですけども、そこのモリテツヤさんが…とにかくもう自分は社会に関心あるし、だからまあ本屋もやってるしなんだけど、なんでみんなこれだけひどいことがあって自民党にいれる人がこんなに多いのかもうほんと理解できない!みたいなっていうのを、素朴な疑問でそれを聞きたいっていう質問が来てですね、確かに結構深い話だなと思って、まあいろんな要素があるというのをちょっとまとめてですね…なんか…じゃあ…あの…なんか、Q&Aみたいな感じで、まああの話をしようかなあと思っていま資料とかね作ってて、青木さんからこの間紹介いただいたあの田中秀征さんのね、あのー自民党改造論でしたっけあの、あれなんかもねちょっと読みながらね、あと中北浩爾さんの本なんかも読みながら作ってはいるんですけれども、これが、明後日なので広島に行きますので、えー」
青木「すごいね」
津田「はい」
青木「よくこんなテーマで…一言で終わりそうじゃない?」
津田「なんですか?」
青木「え?劣等民族だから」
どちらか不明だが一人の声「ハッハッハッハッハッハッハ…」
津田「いやいやみんなね、みんなだから結局お金とかね、なんか地域社会とかね、そういうもののしがら…しがらみにみんな自民党に入れてるっていうですね、そういうことを描いた、『香川1区』っていうですね大島新さんの素晴らしい映画があるんで、それを観ればね、えー分かるかなとは思いますけれども、ただまあそんな単純な話ではなくてもうちょっと色々なのがあるんじゃないかとかね」
青木「なるほど」
現在、この一件を取り上げた記事の大半で「劣等民族発言は自民党支持者(もしくは支援者)に対して述べられたもの」という説明がされている。しかしこれは間違いであり、自民党支持者ではなく日本人に対する発言である。そうだといえる理由を以下に挙げる。
なぜ劣等民族とした対象が自民党支持者ではなく日本人だといえるか
「民族」と言っているため
劣等「民族」と言っているのだから当然に日本人(大和民族)に対する発言と考えるのが自然だ。政党の支持者は民族ではない。民族と言っているにもかかわらず「自民党支持者に対して」だとするのは明らかに不自然だ。
「なぜ人々は自民党に投票するのか」という問いに対する発言であるため
一連の会話の流れを見れば青木氏は「なぜ人々は自民党に投票するのか」というテーマに対して「劣等民族だから」と答えたことがわかる。であれば劣等民族としたのはこの「人々」という部分に対してだ。言葉の順序から見て「人々」という言葉それ自体に自民党に投票するという意味は見いだせない。
もっともこれらの理由だけでは「劣等民族発言は自民党支持者に対して」だという主張を否定はできない。あくまで会話の中でのものなので言葉の綾と考えることもできる。
現にその後の謝罪では日本人に対するものだと述べていた
しかし当該発言に対してネット上で批判が集まると、9/27の同じくポリタスTV「報道ヨミトキFRIDAY」の冒頭において津田氏と青木氏による謝罪が行われた。ここで津田氏ははっきりと劣等民族という発言の対象が日本人に対するものだったと述べており、同席する青木氏もそれを否定していない。
津田「まずですね、えっと本日は、冒頭にお時間いただいて、えー…2週間前の報道ヨミトキFRIDAY…青木さんが出演された、えー…報道ヨミトキFRIDAYの冒頭部分の発言に対するお詫びを申し上げます…(中略)…そこでですねえー…告知をしたときにですねえー…青木さんがまあ茶々を入れるような形っていえばいいんですかね、えー…まあその…あの…この『人々はなぜ自民党に入れ続けるのか』いまこの総選挙を前にね、まあ気になっている方も多かったと思うんですけれども、まあその理由として、えー…まあ青木さんがこの日本人がまあ劣等民族だからじゃないかっていう指摘をされました。まあその発言があのー…出てきた文脈とか経緯っていうのはまあそれなりにいろいろあるんですけれども、ただまあやはり、えー…日本人というですね総体を指して、また民族というですねえー…キーワードで否定的にえー…総体的に語ったことはですね、えー…これまあネガティブな言葉の強さという点でも、えー…文脈の欠如という点でも、えーまあ初めて見る視聴者にとってもまあ唐突であったという点でも不適切であったと認識しています…(中略)…改めて皆さん申し訳ありませんでした。ではちょっと、この件について青木さんからも一言お願いします。」
青木「まああの、いま津田くんがおっしゃって下さったようにまあ…その…あの発言をした経緯とかね、背景とかまあ…言葉に込めた意味ってのはまあそれはいろいろ実はあることはあるんだけれども…まあこれも津田くん言った通りそのエスニシティっていう…まあある意味で曖昧というかね、あるいは微妙な意味とか本当にその敏感な意味を含む単語、言葉を持ち出して、それに優劣をつけるっていう発言は…まああの…僕自身元来その…決して好まないというかね、そういうことには許されないという風に思ってきたし、まあたとえ軽口とはいえああいうことを言ったっていうのは、まあそれ自体は極めて不適切だったなあというふうに思っていますので…まあ僕も本当にあのそれについては、えー謝罪をして撤回をさせていただきます。」
そのためほぼ間違いなく「劣等発言は自民党支持者に対して」とする理解が誤りだといえる。ちなみに青木氏は劣等民族ではなく「列島民族」と言ったのではないかという指摘もあったが、ここで青木氏が「優劣をつける発言」と述べていることからそうではないこともわかる。
少なくともこの謝罪配信がされる9/27以前に書かれた記事であれば「劣等民族発言は自民党支持者に対して」という解釈も誤りとまではいえなかったが、それより後にそのように書かれた記事は、調べれば誤りであることがわかるにもかかわらず間違って書かれたものになる。
なぜ間違った内容の記事ばかりなのか?
「劣等民族発言は自民党支持者に対して」という理解は元々かなり曲解的であり、後の謝罪で間違いであることも確定している。にもかかわらずなぜ間違った内容の記事がこんなにも多いのか。
民族差別発言ではないということにして問題を矮小化したいという思惑から?
たとえば「劣等民族」と言った対象が中国人や韓国人などの外国人であれば、あからさまな民族差別にあたるだろう。もしテレビのコメンテーターを務めているような人物が冗談でもそのような発言をしたら、青木氏や津田氏を含めた社会全体から大きな非難を浴びることになるのは想像に難くない。
そして当然の論理的帰結として、その対象が日本人であっても同様に民族差別にあたり、非難されるべきとなるだろう。
劣等民族発言だけを見ると解釈次第では日本人に対してではなく自民党支持者に対して行われたとすることもできる。そこで一連の出来事を大事としたくないためにわざと「自民党支持者へのもの」とした可能性が真っ先に考えられる。
しかし一連の間違った記述が広まっていった経緯を見ると、どうやらこの理由で書かれた記事はあったとしてもそう多くなさそうなのだ。間違った記述ばかりになったのは次の理由が主だろう。
記事の筆者が元動画を見ず、既出の他記事を参考にして執筆したため
劣等民族発言に関する記事を制作しているのは主にスポーツ新聞やネットメディアで、問題の規模としてわざわざ取り上げるものではないという判断からか、テレビや新聞などの大手媒体でこの件に関する記事を制作しているのは右派の産経新聞だけだ(新聞・雑誌記事の検索サービスを利用して確認したためこの点はほぼ間違いないと思われる。オリコンなど他社が制作した記事を自社メディアで掲載している新聞社はある)。
しかし不思議なことにその産経新聞の記事においても、当該発言が自民党支持者に対してのものだと説明されている(1)。産経新聞の思想的立ち位置を考えれば、あえて曲解して劣等民族発言が自民党支持者に対するものだとする理由が見当たらない。
だがなぜそうなったのかは想像がつく。あくまで可能性の話だと断っておくが、当該記事を執筆した産経新聞の記者が一から考えて記事を作ったのではなく、「劣等民族発言は自民党支持者に対してのもの」だとする既出の記事をよく精査せずに自記事を作る際の参考にしたからではないか。
おそらく産経新聞だけでなく、この件について書かれた記事の大半が、そのようにして作られていった他記事をさらに参考にして作ったために、どれもが同じような記述になってしまったのではないか。
各種メディアが繰り返している記事の盗用
この推測はそれほど荒唐無稽ではないと思う。今年(2024年)6月にスポーツ報知の記者が執筆する連載記事が他紙記事の盗用だと判明する一件があった。盗用を行ったスポーツ報知の記者は、盗用元の記事を見て執筆していたという(2)。
それ以前にも2023年にはネットメディアが生成AIを使うことで他社記事の盗用を行っている(3)。
記事の盗用はスポーツ新聞やネットメディアに限らず大手の通信社、新聞社、テレビ局でも行われている。2011、2012年には時事通信が共同通信の記事を盗用しており、さらにそれ以前には2008年にNHKが信濃毎日新聞記事の盗用を、2007年には朝日新聞が読売新聞記事の盗用を行っている(4)。
こうした記事の盗用はマスメディア関係者によれば「業界全体で日常茶飯事」なのだという(5)。
今回の劣等民族発言は、それに批判的な内容の記事でも多くが「自民党支持者に対して」と記述されている。このことからも劣等民族発言の問題性を薄めようとしてわざと自民党支持者に対するものとした可能性よりも、こちらの可能性のほうが高いと思われる。
YouTubeのメンバー登録料を払いたくなかった?
今回の劣等民族発言が行われたポリタスTVのライブ配信は、配信後一週間は無料で視聴できるものだったようだが、その後はメンバー限定で視聴が可能となる。そしてメンバーになるには最低1190円を支払う必要がある。私は今回の検証のために1190円を払って視聴したが、それをしたくないと考え他記事の内容を引用しただけの執筆者も多かったのではないか。
最初に「劣等民族発言は自民党支持者に対するもの」とした記事はなにか
「劣等民族発言」がネット上で拡散されたのは9/16から
そもそも劣等民族発言が炎上した契機はなんなのだろうか。当該発言がなされた配信は9/12のものだが、私が調べた限りネット上で取り上げられるようになったのは9/16からだ。
9/16にXにおいて当該発言を取り上げる投稿が出てきた。同日には衆院議員の米山隆一氏が当該発言を批判する投稿をして注目を浴びている。
有名メディアが取り上げるようになったのは9/17から
9/16時点まではXや匿名掲示板の投稿、また個人ブログの記事などでこの件が取り沙汰されるだけだったが、9/17になると比較的有名なメディアもこの件に関する記事を出しはじめる。
劣等民族発言に関するネット記事をgoogleの日付指定で検索してみたところ、9/17にこの件について取り上げた有名メディアの記事を4件見つけることができた。
投稿日時からみてこの日、最初に取り上げたのはガジェット通信の記事(9/17 8:45)で、劣等民族発言とそれを批判する上記の米山氏の投稿を紹介しているが、この記事では劣等民族とした対象が自民党支持者であるとは書かれていない。
その次に出てきたのがJ-CASTの記事(9/17 10:45)で、ここで初めて劣等民族発言が自民党支持者に対してだとする間違った記述が出てくる。これが劣等民族発言は自民党支持者に対してのものとした最初の記事の可能性がある。
その次が日刊スポーツの『「劣等民族」自民支持層めぐる識者発言拡散』という記事(9/17 13:58)で、先のJ-CAST記事と同じく自民党支持者に対するものとしている。
さらにその次が産経新聞の『TBSサンモニ出演のジャーナリストが自民支持者を「劣等民族」 立民・米山氏「差別的」』という記事(9/17 16:23)だ。ここでも同様に自民党支持者に対してとしている。
この日以降、この件について取り上げた記事やYouTubeの動画などは大半が「劣等民族発言は自民党支持者に対して」とするものになっている。
間違った記述が広まっていった流れ
ここで気になるのは、「劣等民族発言は自民党支持者に対して」と記述したJ-CASTの記事が出てきて以降、その日に出てきた他の記事も同じように自民党支持者に対するものとしている点だ。
上で述べたように劣等民族発言が行われた配信を観ていれば、劣等民族発言は日本人に対して行われたものと理解するのが自然で、自民党支持者に対して行われたとみるのは不自然だ。
にもかかわらずJ-CAST記事以降に出た2記事がどちらも自民党支持者に対してとしているのは、その2記事が元の配信を見ずにJ-CASTの記事を見て執筆されたからではないか。
ここからは推測になるが、おそらく劣等民族発言を米山氏がX上で批判したことがネット記事が出てくる契機となり、それを受けてガジェット通信の記事が出てきた。さらにそれを受けて作られたJ-CASTの「劣等民族は自民党支持者に対して」とする記事から間違いが広がっていったのではないだろうか。
最初に「劣等民族発言は自民党支持者に対して」とした記事の筆者は配信を見ていなかった?
最初に「劣等民族発言は自民党支持者に対して」と記述したとみられるJ-CAST記事の筆者は、元となる配信を観ず、先に出てきたガジェット通信の記事だけを見て執筆したのではないか。ガジェット通信の記事では一連の劣等民族発言のごく直前直後のやりとり
青木「すごいね、よくこんなテーマで。一言で終わりそうじゃない」
津田「なんですか?」
青木「劣等民族だから」
(二人で声をあげて笑う)
の抜粋と、それを批判する米山氏の投稿
私は立憲民主党ですが、それで良いという事ではないけれど、一定の人が自民党に投票する理由は分かります。それは決して「劣等民族」だからではなく、我々は正々堂々その理由に打ち勝とうとしています。「劣等民族」などと言う考え方は何であれ極めて差別的で、決してリベラルな在り様ではありません
だけが掲載されている。これだけを見ると劣等民族発言が自民党に投票する一定の人々だけに対して行われたものだと誤解してしまう余地がある。
9/17に出てきた4記事は、すべてが青木理氏の劣等民族発言と、それに対する米山氏のX上での批判を取り上げた形式のいわゆる「コタツ記事」だ。おそらく他社が書いたコタツ記事を参考にして書かれたコタツ記事から間違った内容のものが現れ、それが更に他社に真似されて…といった感じで伝言ゲームのように間違いが広がっていったのだろう。
劣等民族と言った対象が自民党支持者と日本人とでは大違い
このような間違った記述が広まり、今も改められていない状況の背景には、劣等民族と呼んだ対象が日本人だろうと自民党支持者だろうと大差ないという執筆者の意識があるのだろうが、そんなことはないはずだ。
自民党支持者を言葉の綾で劣等民族と呼んだのと、日本人を劣等民族と呼んだのでは大きな違いがある。前者は民族という過激な言葉を使っただけの自民党支持者批判にすぎないが、後者は明らかな民族差別だ。
実際にこの間違いを前提として青木氏を擁護するような記事まで出ている。青木氏と同じようにテレビでコメンテーターとして登場することの多い古市憲寿氏の週刊新潮における記事だ。
当該記事では例によって自民党支持者を劣等民族と呼んだという間違った前提に立ったうえで、青木氏が地上波放送への出演を自粛したことを「やり過ぎ」と評し、これが先例になると言論空間は更に窮屈になると述べている。
もっともこれをやり過ぎとした理由は「物理的に誰かを刺したり、殺したりしたわけではない」「特定の個人を攻撃した言葉ではない」などというものであるため、劣等民族と言った対象が日本人であったとしても理屈の上では矛盾しないが、果たして「日本人に対する民族差別」という前提に立っていれば同じことを言えたか、言えたとして記事に掲載することができたかは疑問である。
低品質のコタツ記事を量産するメディアの問題
上で述べたようにこの劣等民族発言を取り上げたのは主にスポーツ新聞やネットメディアによるコタツ記事だ。そしてそのコタツ記事の内容をコピーした新たなコタツ記事が作られていく中で「劣等民族発言は自民党支持者に対して」という間違った説明までがコピーされて広まっていったというのが私の見立てだ。
コタツ記事の特徴は「作るのが簡単」なことだ。テレビやラジオ、SNSなどで有名人が発言したことをそのまま書くだけの代物であり、ロクに時間や手間をかけずに作られていることは想像に難くない。となれば他のコタツ記事をロクに精査せずソースにしてコタツ記事が作られることもあり得るだろう。特に今回の劣等民族発言とそれを謝罪した配信は、YouTubeチャンネルにメンバー料を払わなければ確認することができない。いちいち記事を書くために金を払っていては粗製乱造でPV数を稼いでいくコタツ記事の主旨に合わないだろう。
今回の問題の根源は時間と手間をかけずに作った低品質記事を量産してPV数を稼ごうとするメディアの姿勢にある。当然それ自体もよくないのだが、コタツ記事を量産している代名詞的存在のスポーツ新聞は軽減税率の適用対象でもある。このようなメディアに税制上の優遇を与えるべき理由は皆無だ。
さらには五大紙の一角を占める産経新聞までが、内容をロクに精査せず間違いをそのままにして記事を出している。上で述べたように産経新聞の思想的スタンスからすれば劣等民族発言の問題性を矮小化するような解釈をする必然性はないはずだ。実際に産経新聞は青木氏の劣等民族発言を強く批判する論説委員によるコラムを出している。なぜかこのコラムでだけは正しく劣等民族発言の対象が日本人だとしているが、10/30付の記事ではふたたび劣等民族発言が「自民党支援者」に対してのものだとしている。産経新聞は真面目に記事を書く気があるのだろうか?
自社で執筆していない記事を掲載するメディアが増えたことで間違った内容がさらに広まっていく可能性も
さらに問題なのはそうして作られた記事が、その記事を作ったメディア以外にも掲載されていることだ。
この記事は毎日新聞デジタルで掲載されているものだが、記事自体は傘下企業のスポーツニッポンが制作したものだ。内容も例によって劣等民族発言が「自民党支援者」に対するものという間違ったものになっている。
同様に劣等民族発言を自民党支持者に対してのものとしているうえ、当該ライブ配信は9月12日であるにもかかわらず13日と間違えているオリコンニュースの記事(記事が削除されてしまったためウェイバックマシンの履歴)は毎日、産経、共同通信の47newsといったサイトでも掲載されている。オリコン制作の記事は新聞社など他メディアのウェブサイトにも広く配信されているようだ。
一応は新聞社・通信社はスポーツ紙やネットメディアに比べれば信頼性が高いという位置づけであると思うが、こうした他メディアの記事を掲載することで、その中の間違った記述がそのまま信頼性が高いと考えられている新聞社・通信社のサイトを通して広まっていくことになる。
新聞・テレビの読者、視聴者が減っている現状を見ればこれからマスメディアが自力で取材をして自前の記事を作る人的、資金的余裕が減り、そのぶん他社やフリーの個人が執筆した記事を自社メディアに掲載するという事例が増えていくのではないかと思う。
おそらく掲載した側のメディアは他社の執筆した記事の内容をいちいち精査しないだろう。こうした慣習が広まれば誤った内容の記事が、それを書いたメディアの枠を超えて広がっていってしまう危険がある。
追記:私がこの記事を書いている間にまさしくそのような問題が明るみに出た。毎日新聞が外部のコンテンツ制作会社が作った誤った内容のコタツ記事を自社サイトに掲載してしまったというのだ(6)(7)。
脚注
1.産経新聞、自民支持者「劣等民族」発言を撤回 ジャーナリストの青木理氏、地上波テレビ出演を自粛、https://www.sankei.com/article/20240928-SMFHTZXPKFEZBGWL7MCVINBACI/
2.NHK、スポーツ報知の記者が連載記事で盗用 識者の名誉教授取材せず、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240601/k10014467961000.html
3.J-CAST、49記事で日経新聞などから剽窃・盗用 ニュースサイトが謝罪「社会的・倫理的に問題」…原因は生成系AI、https://www.j-cast.com/2023/09/19469129.html
4.J-CAST、時事通信の配信記事が「ワシントン共同」に 記者は「コピペ」で記事書いているのか、https://www.j-cast.com/2012/06/14135678.html
5.ITmediaビジネスオンライン、“記事コピー”は日常茶飯事……マスコミの根っこに潜む闇とは、https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1206/28/news002_2.html
6.プレジデントオンライン、「芸能人の偽アカ」に騙され誤報→削除→大炎上…毎日新聞が「芸能こたつ記事」に手を出してしまった残念な理由、https://president.jp/articles/-/88010
7.ABEMA TIMES、毎日新聞“こたつ記事”誤報に波紋 竹中平蔵氏「消費税や法律の恩恵を受けるメディアがPV稼ぎ=大衆に媚びるのはジャーナリズム失格だ」、https://times.abema.tv/articles/-/10151147