「スメハラ」などという言葉があるが、明らかにおかしな言葉だと思う。
スメハラとは「スメル・ハラスメント」の略で、体臭などの臭いで相手や周囲を不快にさせるという意味だ。近頃この言葉が世間に定着してきたようで、新聞やテレビでも頻繁に使われるようになったと感じる。
しかしこの言葉が無批判に使われる現状に私はいい思いがしない。それは私が臭いからではなく(もしかしたら臭いかもしれないが)、この言葉が「ハラスメント」の悪用、濫用ではないかと思うからだ。
本来のハラスメントの意味からかけ離れている
本来ハラスメントとは、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントのような「嫌がらせ」の要素が強いものを指す言葉であったはずだ。しかし、いわゆる「スメハラ」を行っている人物はほとんどの場合、嫌がらせを目的とはしていないはずだ。
もっともパワハラやセクハラも、やっている本人は「指導のつもり」「スキンシップのつもり」として嫌がらせのつもりがないことも多いだろう。しかし、それでも特定の人物を対象に何らかの行動をしているケースが大半だ。
対してスメハラは、やっている本人は特に誰かに対して何かをしようという意識もなければ、不快に思われている自覚がないことも多い。
これをハラスメントとするのはかなり無理があるのではないか。
逆にこれをハラスメントと言えてしまうのなら、相手の状態が自分にとって不快だというケース全てにハラスメントのレッテルを貼ることができてしまう。これでは本来のハラスメントという概念が不明瞭になりその意義が薄まってしまうのではないか。
おかしな◯◯ハラは世に数多あるが…
もっとも、これまで◯◯ハラという言葉はあまりに多くの種類が作られていて、中には意味不明だったり明らかな難癖と思えるようなものも少なくない。それを考えれば今更ハラスメントという言葉の濫用に異議を唱えても仕方がないかもしれない。
しかし、ことスメハラに関しては現状マスメディアでも無批判に使用されていることに加え、他有象無象の◯◯ハラにはない「悪どさ」があると思う。
それは「指摘しづらいことをハラスメントというレッテルを貼ることで、相手をハラスメントの加害者、指摘する側をハラスメントの被害者という立場に置いて、指摘をしやすくしようという打算的な意図がある」ことだ。
「スメハラ」という言葉から感じられる小ずるい計画性
体臭というのは本人の体質によるところが大きく、生まれ持った身体の問題を含むため、指摘することがはばかられる向きがある。はっきりと「臭いが不快だ」などと言ってしまえば、逆にそれを言った側がハラスメントの誹りを受けてしまうかもしれない。
だから「スメハラ」であるとして先に相手をハラスメントの加害者とすることで被害者ポジションを取ろうとする。
「ハラスメント」という言葉は濫用が指摘されて久しいものの、今なお非常に効果の高い言葉だ。この言葉が広まったおかげで職場における嫌がらせがなくなった、もしくは未然に防がれたというケースは数知れないだろう。
スメハラという言葉からはこうしたハラスメントという効果の高い言葉を都合よく利用しようとする思惑を感じる。
悪臭を指摘するのは悪いことではない
体臭が不快で仕事や生活の支障であるという指摘自体は、相手の身体の問題に踏み込んではいても指摘として正当なものだ(もちろんケース次第であり、指摘の仕方が悪かったり、ちょっとしたことを騒ぎ立てるのは問題だろうが)。
本人の体質によるとはいえシャワーを浴びる、デオドラント用品を使うなど対策を行うことも難しくない。
逆にそうした指摘が不当であるとすれば、特定の臭い人物のために複数の人間が下手をすれば何時間も同じ場所で我慢し続けなければならないという状況も出てくるだろう。さすがにそれはおかしいというのが一般的な感覚ではないか。
ゆえに正当な理由と方法であれば堂々と体臭を指摘し改善を求めればいいはずなのだ。にもかかわらず体臭を指摘するやましさから相手の加害性を殊更に強調するレッテルを貼ってそれを言いやすくしようとする姿勢は卑怯であり、ハラスメントという言葉の悪用だろう。
「スメハラ」を無批判に使用する新聞・テレビ
にもかかわらずこの「スメハラ」が世間で一定程度通用してしまっている現状があるのは嘆かわしい。
上述のようにテレビや新聞でもこの言葉は無批判に使用されている(1)(2)(3)。
少なくとも食料品以外では唯一、軽減税率の恩恵を受けている新聞。また国から免許を受けて有限な電波を使用しているテレビ局のような「特権」を持つメディアは、このような言葉を無批判に使用することを慎むべきではないのか。
脚注
1.産経新聞,「同僚のにおいで仕事に集中できない」 人事評価反映も、企業で進むスメハラ対策,https://www.sankei.com/article/20240702-WGJGMYRERBMTJNE2KU75VDSMII/
2.TBS,「濡れぞうきんみたいなニオイの人が…」汗ばむ季節“スメハラ”に注意、香水や柔軟剤でも…ニオイが気になる相手にどう伝える?【Nスタ解説】,https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1169605
3.毎日新聞,自覚ない「スメハラ」で仕事の意欲低下 企業に求められる対策は,https://mainichi.jp/articles/20240511/k00/00m/040/244000c