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マスク未着用を注意した65歳の男性が暴行を受け下半身不随になった事件のまとめ

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事件の概要

事件の現場となった駐車場

2020年5月31日午後0時半ごろ、神戸市兵庫区の駐車場でマスクを付けずにいた運送業の男(25歳、以下加害者)に対して、近くに住む無職男性(65歳、以下被害者)が「マスクせんかい」と怒鳴ったところ、口論となり加害者が被害者の首を絞めながら投げとばし、首の脱臼骨折と、手足にまひの後遺症を伴う首のけがを負わせた。

当時、被害者と共に行動していた知人女性の証言によると、被害者の男性が怒鳴った後、加害者が「おっさんに言われたくない」と言い返し、さらに男性の肩を押してもみ合いになったという。女性は「もう許して、死んでしまう」と叫び、加害者の暴行は5分程度に及んだという。

当時は兵庫県から不要不急の外出自粛が呼びかけられていた。

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事件後の被害者の反応

被害者の男性は事件後に毎日新聞の取材に応じている。

暴行を受けた男性は救急搬送され緊急手術を受けたものの、下半身不随となり車いすでの生活を余儀なくされた。手の指が自由に動かず、足も時折けいれんして痛みに襲われるという。事件前は健康で、ゴルフなど趣味を満喫していたというが、現在では日々、ヘルパーの介護を受けて生活している。

当時は知人女性と外食に向かう途中であったという。過去にも「感染拡大を止めたい」との思いから道行く人のマスク未着用を注意していた。

男性は事件について、「殺されたようなもんや」と語った。当時はまだコロナとの向き合い方がはっきりわからなかったという。新規感染者数をチェックし、日々の増減に一喜一憂していたという。「迷惑をかける人が許せなかった」という。

今では過剰になっていたと思うとし、「注意の仕方がきつかったのかもしれないし、言わんかったらよかったとも思う」と後悔の弁を語った。

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裁判と判決

事件の公判は2022年4月18日に神戸地裁で開かれた。検察は懲役5年を求刑した。被告は正当防衛を主張し起訴内容を否認、無罪を主張した。

加害者側の主張

弁護側の質問で被告は、被害者もあごマスクで「あんたもしてないやろう」と近寄ったら向こうも近寄ってきたとし、被害者は自分の額に合わせるかのように顔を近づけてきたため、なにかされる前に制圧しなければ、と述べた。また「被害者が怒鳴りながら左鎖骨を右手でつかんできたのを振り払ったが、暴れるので殴られる前に制圧しようとさば折りにした」とし、転倒後は被害者が謝ったため「俺もごめんな」と起き上がらせ、知人女性がもうええよと言うので自宅に戻った、と一連の経緯を説明した。そのうえで、「体が不自由になったことは申し訳ないと思っている」と述べた。

検察側の主張

これに対して検察は、被告が18年の格闘技経験があること、被害者が45キロの小柄な高齢男性だったことを挙げ、体格差が大きいことを指摘した。また、被告は捜査段階での供述では「自らが先に男性の胸ぐらを掴むなどして暴行した」と述べていたとして、公判での供述と違うことを指摘し、捜査段階の供述の方が自然で信用性が高いとした。

判決

2022年5月17日の判決で神戸地裁(西森英司裁判官)は、懲役3年・執行猶予5年を言い渡した。地裁は、男が当時酒に酔った状態でマスクをしていなかった被害者の男性から「マスクせんかい」と怒鳴られて注意されたことから口論になり、暴行したと認定。

怒鳴られた後の加害者の対応について「格闘技などの経験が長く腕に自信がある被告が、自分より小柄で明らかに高齢で、けんかになれば負けるはずのない被害者からぶしつけな態度を取られたことに対し、捨て置けないとの気持ちが働いたことが優にうかがえる」として正当防衛や過剰防衛は認められないとした。

また一連の経緯について「法治国家では、こうした争いについて平和的解決を選択すべきところを、被告自身が格闘技の経験がある旨を告げ、積極的とまでは言えないが暴行し、被害者を転倒させて負傷させることがまかり通るのはよくない」と述べた。

判決については「(被告は)実刑を覚悟していたようだが、刑の執行を猶予するかどうか、ぎりぎりの判断だった」とし、反省の態度を示していることなどを考慮した上で、懲役3年執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。また、「一方的に被害者にけがをさせた民事上の賠償責任は生じる」と述べた。

公判後

被告は被害者に対して謝罪と損害賠償の意思を示しているが、これまで(2022年5月17日時点)のところ返答がないという。

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筆者の所感

今回の事件について率直な感想を言うなら、被害者の行動には大きな問題があったと思う。屋外でのマスクの着用はあくまで任意であり、法律で強制されている訳ではない。被害者は「迷惑をかける人が許せなかった」という理由で以前にも道行く人のマスク未着用を注意していたというが、強制される謂れのないことで、面識のない相手に突然喧嘩腰で注意をするのではどちらが迷惑なのか分からないだろう。

また、被害者も事件当時は顎マスクの状態であったり、県から不要不急の外出を自粛するよう要請が出ていた中、外食に向かっていたりと、自身も感染対策をしっかりしていたとは言えない部分が散見される。

無論、だからといって加害者による暴力行為が許される訳ではない。加害者は格闘技の経験がある以上、人並み以上に暴力を自制する必要があった。

しかし今回は被害者もマスクを顎にかけた状態であり、いきなり怒鳴ってきて反論にも喧嘩腰で応じた以上、手が出てしまう心情もある程度はわかる。裁判では被害者が小柄な高齢者であり、そのような相手に暴力を振るうことは許されないと指弾されたが、相手がもう少し若く丈夫であったら半身不随まではいかなかったかもしれないと考えると、これではなんだか「絡まれ損」といった感じでどうにも釈然としない思いがある。

これで被害者が加害者に多額の損害賠償をしないといけなくなったと考えると、自らの行いが招いた結果とはいえ、加害者には同情を禁じえない。被害者は加害者による被害弁償の申し出に返答していないとのことだが、被害者が自らの行いを反省したために被害弁償を請求しないという選択をしたということであってほしいと思う。

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事件まとめ